【アウトソーシングほっとニュース】高年齢者雇用状況の集計結果
厚生労働省は、令和6年12月20日、令和6年の「高年齢者雇用状況」集計結果を公表しました。これは、通称「6.1報告(ロクイチ報告)」と呼ばれる高年齢者雇用状況等報告書を集計したもので、事業主には、毎年6月1日現在の高年齢者の雇用に関する状況を厚生労働大臣に報告することが法律で義務付けられています。
高年齢者雇用安定法では、65歳までの雇用の確保を目的として、「定年制の廃止」や「定年の引上げ」、「継続雇用制度の導入」のいずれかの措置(高年齢者雇用確保措置)を講じるよう、企業に義務付けています。
加えて、70歳までの就業機会の確保を目的として、「定年制の廃止」や「定年の引上げ」、「継続雇用制度の導入」という雇用による措置や、「業務委託契約を締結する制度の導入」、「社会貢献事業に従事できる制度の導入」という雇用以外の措置のいずれかの措置(高年齢者就業確保措置)を講じるように努めることを企業に義務付けています。
今回の集計結果は、従業員21人以上の企業からの報告に基づき、令和6年6月1日時点での、企業における高年齢者雇用確保措置及び高年齢者就業確保措置の実施状況などをまとめたものです。なお、この集計では、従業員21人~300人規模を中小企業、301人以上規模を大企業としています。
高年齢者雇用法制の概要
現在における高年齢者雇用に関する法制の概要について確認しておきましょう。
(1)60歳まで
1970年代までは55歳を定年とする制度が主流でしたが、1970年代半ばより高年齢者の雇用確保の観点から60歳をもって定年とする制度が主流となり、平成6年の高年齢者雇用安定法改正により、60歳を下回る定年制が禁止されました。
(2)65歳まで
平成16年の高年齢者雇用安定法改正により、65歳未満の定年の定めがある事業主は、雇用する高年齢者の65歳までの雇用確保の措置として、以下のいずれかを講ずることが義務付けられました。
①65歳までの定年の引上げ
②定年制の廃止
③65歳までの継続雇用制度の導入
その後、平成24年の高年齢者雇用安定法改正により、解雇事由・退職事由に該当しない限り、希望者全員に(上記のいずれかの措置による)65歳までの雇用を確保する義務が課されることになりました。
なお、平成24年度までに労使協定により継続雇用制度の対象者を限定する基準を定めていた事業主は、経過措置として、老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢以上の年齢の者について継続雇用制度の対象者を限定する基準を定めることが認められていましたが、その経過措置は2025年3月31日をもって終了します。これにより、65歳までの雇用確保措置が完全適用となります。
(3)70歳まで
令和2年の高年齢者雇用安定法改正により、70歳までの高年齢者就業確保措置として、事業主に以下のいずれかを講ずることの努力義務が課されることとなり、令和3年4月から施行されています。
①70歳までの定年の引上げ
②定年制の廃止
③70歳までの継続雇用制度の導入
④70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
⑤70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入
A) 事業主が自ら実施する社会貢献事業
B) 事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業
※④と⑤を合わせて「創業支援等措置」といいます。
65歳までの高年齢者雇用確保措置の実施状況
65歳までの高年齢者雇用確保措置を実施済みの企業は99.9%(中小企業は99.9%、大企業100.0%)であり、その内訳は次の通りです。
●継続雇用制度の導入:67.4%(前年比1.8ポイント減少)
●定年の引上げ:28.7%(同1.8ポイント増加)
●定年制の廃止:3.9%(変動なし)
70歳までの高年齢者就業確保措置の実施状況
70歳までの高年齢者就業確保措置を実施済みの企業は31.9%と前年比で2.2ポイント増加しています。従業員規模別にみると、21人~30人の中小企業では35.1%、31人~300人の中小企業では31.4%、301人以上の大企業では25.5%となっており、規模が小さい企業ほど高年齢者就業確保措置の導入が進んでいることがわかります。高年齢者就業確保措置の内訳は次の通りです。
●継続雇用制度の導入:25.6%(前年比2.1ポイント増加)
●定年の引上げ:2.4%(同0.1ポイント増加)
●定年制の廃止:3.9%(変動なし)
●創業支援等措置の導入:0.1%(変動なし)
定年制の状況
企業における定年制の状況(定年年齢別)は以下の通りで、65歳以上定年企業(定年制の廃止を含む)は32.6%と、前年比で1.8ポイント増加しています。
さいごに
定年を65歳以上(定年制の廃止を含む)とする企業が約3分の1となり、令和3年4月から努力義務として施行された70歳までの「高年齢者就業確保措置」についても実施済みの企業が着実に増加しています。
労働力不足が深刻化する中、65歳を超えた方々にも多くを依存する社会が現実となっていますので、少しずつであっても今のうちから70歳までの雇用を見据えて、制度や仕組みづくりを進めていくことが大切です。
日本の高齢者の勤労意欲は、国際的に見ても高いという調査結果があります。70歳までの雇用においては、当該労働者の意欲やスキルを低下させないために、人事制度の工夫(高齢者とそれまでの労働者との人事制度をできるだけ近づけるなどの方法)のほか、キャリア支援を行うことが望ましいと考えます。
高齢者になってからも、意欲を失わず、それまでに得た知識や経験を発揮して業務にあたり、さらに後進の指導を行うなど、高齢者が生き生きと働けるためにどうすればよいのかを、企業や職場で探っていくことが重要な課題になると思います。
社会保険労務士法人エスネットワークス
特定社会保険労務士M・K
事業会社での人事労務キャリアを活かし、クライアントの労務顧問を務めている。労働法をめぐる人と組織に焦点を当てる「生きた法」の実践をモットーとし、社会保険労務士の立場からセミナーや講演を通して、企業に“予防労務”の重要性を呼び掛けている。日本産業保健法学会会員。