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【社エス通信】2024年11月号 知っておきたい「改正育児・介護休業法」のポイント

目次

 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律の一部を改正する法律(以下、改正育児・介護休業法)は、第213回通常国会において、2024年5月24日に可決・成立し、同31日に公布されました。また、2024年9月11日に、改正育児・介護休業法の詳細を定める政省令の公布および指針の告示がなされました。
 【社エス通信】2024年11月号では、改正のポイントや事業主(全企業が対象です)及び人事労務担当者に求められる対応について解説します。

改正育児・介護休業法の概要

 改正育児・介護休業法は、男女ともに仕事と育児・介護を両立できるようにするため、子の年齢に応じた柔軟な働き方を実現するための措置の拡充、育児休業の取得状況の公表義務の対象拡大、介護離職防止のための仕事と介護の両立支援制度の強化等の措置を講ずることを主な内容としています。

 改正のポイントは次の通りです。
1.子の年齢に応じた柔軟な働き方を実現するための措置の拡充
①子が3歳になるまでの事業主が講ずる措置(努力義務)・短時間勤務制度の代替措置にテレワークを
追加
②子が3歳以上小学校就学前までの柔軟な働き方を実現するための措置
③所定外労働の制限(残業免除)の対象範囲の拡大
④子の看護休暇の取得理由・対象範囲の拡大
⑤妊娠・出産の申出時や子が3歳になる前に、労働者の仕事と育児の両立に関する個別の意向の聴取・配慮
2.育児休業の取得状況の公表義務の拡大
3.介護離職防止のための仕事と介護の両立支援制度の強化等
①両立支援制度等について個別の周知・意向確認
②両立支援制度等についての早期の情報提供や雇用環境の整備
③介護休暇の対象範囲の拡大
④事業主が講ずる措置(努力義務)にテレワークを追加

施行日は、2025年4月1日(ただし、1②・⑤は2025年10月1日)です。

子の年齢に応じた柔軟な働き方を実現するための措置の拡充

 子の年齢に応じてフルタイムで残業をしない働き方やフルタイムで柔軟な働き方を希望する割合が高くなっていくこと等を踏まえ、男女とも希望に応じて仕事・キャリア形成と育児を両立できるようにしていくことが必要です。

改正ポイント1①~④の全体像は、下図をご覧ください。
出所:https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000788616.pdf

育児・介護休業法改正ポイント1①~④の全体像









子が3歳になるまでの事業主が講ずる措置(努力義務)・短時間勤務制度の代替措置にテレワークを追加

 3歳に満たない子を養育する労働者がテレワークを選択できるように措置を講ずることが努力義務化されます。また、3歳に満たない子を持つ労働者に対する、短時間制度を講ずることが困難な場合の代替措置の一つとしてテレワークが追加されます。

子が3歳以上小学校就学前までの柔軟な働き方を実現するための措置

 事業主に、3歳以上小学校就学前の子を養育する労働者に対して、柔軟な働き方を実現するための以下のア~オの措置のうち、2つ以上の措置を選択して講ずることが義務づけられます。労働者は、事業主が講じた措置の中から一つを選択して利用することができます。なお、事業主が措置を講ずるに際し、職場のニーズを把握するため、労働者の過半数で組織する労働組合(過半数労働組合がない場合は、労働者の過半数代表者)からの意見を聴取することが必要です。

ア.始業終業時刻等の変更の措置(フレックスタイム制、時差出勤)
イ.テレワーク等の措置(10日/月)
 ※より高い頻度で利用することができる措置とすることが望ましい
ウ.保育施設の設置運営その他これに準ずる便宜の供与(ベビーシッターの手配と費用負担等)
エ.労働者が就業しつつ子を養育することを容易にするための新たな休暇の付与(10日/年)
 ※中抜けの取得を認める時間単位での休暇となるように配慮すること
オ.育児のための所定労働時間の短縮措置
 ※1日の所定労働時間を原則6時間とする措置を含むものとしなければばらない

所定外労働の制限(残業免除)の対象範囲の拡大

 所定外労働の制限(残業免除)については、3歳に満たない子を養育する労働者から小学校就学前の子を養育する労働者に対象範囲が拡大されます。

子の看護休暇の取得理由・対象範囲の拡大

 子の看護休暇については、感染症に伴う学級閉鎖や子の行事参加(入園式、卒園式、入学式が対象)にも利用できるようになり、取得事由の拡大に伴い、名称も「子の看護等休暇」に改められます。また、請求できる範囲が、小学校就学前から小学校3年生修了時まで拡大されます。さらに、事業主に引き続き雇用された期間が6か月未満の労働者を労使協定の締結により対象から除外できる仕組みが廃止されます。

労働者の仕事と育児の両立に関する個別の意向の聴取・配慮(新設)

 労働者の仕事と育児の両立支援のニーズに対応するためには、「柔軟な働き方を実現するための措置」の制度等の周知とその利用の意向を確認するとともに、子や各家庭の状況に応じた個別の意向に配慮することが必要です。

改正ポイント1⑤の全体像は、下図をご覧ください。
出所:https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000788616.pdf

育児・介護休業法改正ポイント1⑤の全体像









 事業主は、労働者に対し、「柔軟な働き方を実現するための措置」の説明と取得意向を確認するために面談等を行わなければなりません。また、個別周知・意向確認のための面談等は、子が1歳11か月に達する日の翌々日から2歳11か月に達する日の翌日までの間に行うことが必要です。
■個別周知の事項:①事業主が講じた措置の内容、②措置に係る申出先、③所定外労働・時間外労働・深夜業の制限に関する制度
■個別周知の方法:①面談、②書面交付、③FAX送信、④電子メール等の送信(ただし、③・④は労働者が希望した場合に限る)
■意向確認の方法:①面談、②書面交付、③FAX送信、④電子メール等の送信(ただし、③・④は労働者が希望した場合に限る)
 なお、労働者の家庭や仕事の状況が変化する場合があることを踏まえ、当該労働者が選択した制度が当該労働者にとって適切であるかを確認すること等を目的として、上記面談等の実施後も、定期的に面談等を実施することが望ましいとされています。

 また、事業主は、労働者に対し、次のタイミングで「仕事と育児の両立」に関して労働者の意向を聴取し、配慮しなければなりません。
①労働者本人又は配偶者が妊娠・出産等した事実を申出た際に実施する育児休業等の取得意向を確認するための面談等を行うとき
②柔軟な働き方を実現するための措置の利用に関する面談等を行うとき
■意向聴取の方法:①面談、②書面交付、③FAX送信、④電子メール等の送信(ただし、③・④は労働者が希望した場合に限る)
■意向に対する配慮:労働者の意向を踏まえて検討を行い、事業所の状況に応じつつ、例えば、①始業・終業時刻、②就業場所、③業務量、④育児休業、子の看護休暇、所定外労働の制限、時間外労働の制限、深夜業の制限、短時間勤務の措置等両立制度の利用期間、⑤その他労働条件について配慮することが考えられます。
 なお、育児期に労働者の仕事と育児の両立に係る状況やキャリア形成に対する考え方等が変化する場合があることを踏まえ、上記面談のほか、妊娠・出産等の申出時や育児休業後の復帰時、短時間勤務措置や柔軟な働き方を実現するための措置期間中等においても定期的に面談等を実施することが望ましいとされています。

育児休業の取得状況の公表義務の拡大

 現在の少子化の進行等の状況や「男女とも仕事と子育てを両立できる職場」を目指す観点から、次世代育成支援対策法を延長するとともにその実効性をより高め、男性の育児休業取得等をはじめとした仕事と育児の両立支援に関する事業主の取り組みを一層促す必要があります。
 常時雇用する労働者数が1001人以上の事業主に対しては、2023年4月から、毎年1回、男性の育児休業等の取得状況を公表することが義務づけられていますが、今回の改正では、男性の育児休業のさらなる取得促進のため、301人以上の事業主にも公表が義務づけられます。

介護離職防止のための仕事と介護の両立支援制度の強化等

両立支援制度等について個別の周知・意向確認

 仕事と介護との両立支援制度を十分活用できないまま介護離職に至ることを防止し、両立支援制度を利用しやすい雇用環境の整備を行うため、労働者が家族の介護を必要とする状況に至ったことを申し出た場合に、事業主は、当該労働者に対して、介護休業及び仕事と介護の両立支援制度等の内容、制度利用時の申し出先、介護給付金に関する事項を個別に周知し、両立支援制度等の利用の意向を確認することが義務づけられます。
■個別周知の事項:①介護休業・介護両立支援制度等、②介護休業・介護両立支援制度等の申出先、③介護休業給付金に関する事項
■個別周知の方法:①面談、②書面交付、③FAX送信、④電子メール等の送信(ただし、③・④は労働者が希望した場合に限る)
■意向確認の方法:①面談、②書面交付、③FAX送信、④電子メール等の送信(ただし、③・④は労働者が希望した場合に限る)
 なお、介護休業・介護両立支援制度等の取得や利用を控えさせるような形での周知・意向確認は措置として認められません。

改正ポイント3①~④の全体像は、下図をご覧ください。
出所:https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000788616.pdf

育児・介護休業法改正ポイント3①~④の全体像









両立支援制度等についての早期の情報提供や雇用環境の整備

 介護離職を防止するためには、介護に直面するよりも早期での情報提供が重要です。そのため、介護保険の第2号被保険者となる40歳のタイミング等の効果的な時期に、労働者に対して、介護に関する両立支援制度等の情報を記載した資料を配布するなどの情報提供を行うことが、事業主に義務付けられます。
■情報提供の時期:①40歳に達した日の属する年度の初日から末日までの期間または②40歳に達した日の翌日から起算して1年間のいずれか
■情報提供の事項:①介護休業・介護両立支援制度(介護休暇、所定外労働の制限、時間外労働の制限、深夜業の制限、短時間勤務等の措置)、②介護休業・介護両立支援制度の申出先、③介護休業給付金に関する事項
■情報提供の方法:①面談、②書面交付、③FAX送信、④電子メール等の送信

 また、介護休業や介護両立支援制度の申し出が円滑に行われるようにするため、事業主には、以下のいずれかの措置を講ずることが義務づけられます。
介護休業・介護両立支援制度に関する研修の実施
介護休業・介護両立支援制度に関する相談体制の整備(相談窓口の設置)
自社の制度の利用事例の収集・提供
自社の制度と制度利用促進に関する方針の周知

介護休暇の対象範囲の拡大

 介護休暇については、子の看護等休暇と同様に、事業主に引き続き雇用された期間が6か月未満の労働者を労使協定の締結により対象から除外できる仕組みが廃止されます。

事業主が講ずる措置(努力義務)にテレワークを追加

 要介護状態の対象家族を介護する労働者がテレワークを選択できるように措置を講ずることが、事業主に努力義務化されます。

まとめ

 今回の法改正に伴い、子の看護(看護等)休暇、介護休暇、所定外労働の制限(残業免除)の見直しに関する就業規則等の改訂労使協定の再締結が必要となり、実務に大きな影響があります。
 また、育児に関する柔軟な働き方を実現するための措置及び介護に関する雇用環境整備として講ずる措置の検討、介護に関する個別周知・意向確認や早期の情報提供のための準備など、かなり幅広く対応しなければなりません。育児に関する柔軟な働き方の措置を検討する際には、あらかじめ自社の労働者の両立支援に対するニーズを把握することも必要です。
 今後、改正育児・介護休業法に関する詳しい内容や職場で活用できる資料などが順次、厚生労働省ホームページの「育児・介護休業法について」に掲載されていく予定ですので、2025年4月及び10月の施行に向けて、早めの準備を進めていくことをお勧めします。

社会保険労務士法人エスネットワークス
特定社会保険労務士M・K

事業会社での人事労務キャリアを活かし、クライアントの労務顧問を務めている。労働法をめぐる人と組織に焦点を当てる「生きた法」の実践をモットーとし、社会保険労務士の立場からセミナーや講演を通して、企業に“予防労務”の重要性を呼び掛けている。日本産業保健法学会会員。



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