【アウトソーシングほっとニュース】スタートアップ企業で働く者らへの労基法の適用について
厚生労働省は、「スタートアップ企業で働く者や新技術・新商品の研究開発に従事する労働者への労働基準法の適用に関する解釈について(令和6年9月30日基発第0930第3号)」を公表しました。この通達は、スタートアップ企業で働く者や研究開発に従事する労働者に対する労働基準法の適用について、厚生労働省の考え方を示した重要な指針です。一部抜粋してご紹介します。
スタートアップ企業の役員が労働者に該当するか否かの判断における基本的考え方
新たに事業を開始し、かつ、新しい技術やビジネスモデルを有し、急成長を目指す企業は、一般に「スタートアップ企業」と呼ばれ、こうした企業においては、特にその創業当初において、経営者と従業員の線引きが明確でない場合が見られます。
スタートアップ企業の役員が労働基準法上の労働者に該当するか否かについては、契約の形式や名称にかかわらず、実態を勘案して使用従属性の有無等によって総合的に判断されます。これは、働く者が業務遂行に対して指揮命令を受けているかどうか、また勤務場所や勤務時間に拘束されているかによって判断されます。役員は一般的には労働基準法上の労働者に該当しないと考えられますが、取締役であっても、就任の経緯、法令上の業務執行権限の有無、取締役としての業務執行の有無、拘束性の有無・内容、提供する業務の内容、業務に対する対価の性質及び額などを総合考慮しつつ、会社との実質的な指揮監督関係や従属関係を踏まえて、労働基準法上の労働者であると判断した裁判例(京都地判平 27.7.31)等があることに留意する必要があります。
スタートアップ企業の役職者等が管理監督者等に該当するか否かの判断における基本的考え方
「管理監督者」に該当する場合、労働時間や休憩の規制が適用されません。
昭和22年9月13日付け発基第17号及び昭和63年3月14日付け基発第150号・婦発第47号に基づき、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者であって、労働時間、休憩及び休日に関する規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない重要な職務と責任を有し、現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないような立場にあるかを、職務内容、責任と権限、勤務態様及び賃金等の待遇を踏まえ、実態に即して総合的に判断することとなります。
具体的には、例えばスタートアップ企業の労働者のうち、以下の者であって、定期給与である基本給、役付手当等においてその地位にふさわしい待遇がなされていたり、ボーナス等の一時金の支給率、その算定基礎賃金等についても役付者以外の一般労働者に比し優遇措置が講じられている者は、一般的には管理監督者の範囲に含めて差し支えないものと考えられます。
① 取締役等役員を兼務する者
② 部長等で経営者に直属する組織の長
③ ①及び②と当該企業内において同格以上に位置づけられている者であって、経営上の重要事項に関する企画立案等の業務を担当するもの(全社的なプロジェクト遂行の現場業務を統括するプロジェクトリーダーや、全社的なプロジェクト全体の技術面に特化して統括する立場にある者など)
ただし、企業が人事管理上あるいは営業政策上の必要等から任命する職制上の役付者であれば全てが管理監督者として例外的取扱いが認められるものではないことに留意が必要です。例えば、役職上は部長等に該当する場合であっても、経営や人事に関する重要な権限を持っていない、実際には出社・退社時刻を自らの裁量的な判断で決定できない、給与や一時金の面において管理監督者にふさわしい待遇を受けていないといった場合には、管理監督者には該当しないと考えられます。
新技術・新商品の研究開発に従事する労働者に係る労働基準法36条11項〔時間外労働の限度時間等の規定の適用の除外〕の適用に関する判断の考え方
「新たな技術、商品又は役務の研究開発に係る業務」については、労働基準法第36条第3項から第6項までの次の規定が適用されません。
●36協定の時間外労働の時間
●36協定の限度時間
●限度時間を超える36協定
●限度時間を超えて労働させられる範囲
従って、時間外労働や休日労働を行わせる必要がある場合には必ず36協定の締結・届出をしなくてはなりませんが、限度時間(月45時間・年360時間)や上限時間を超えて協定することが可能となっています。そのため、所轄労働基準監督署長に提出する36協定届は、一般労働者とは異なる別様式(様式第9号の3)になります。
この「新たな技術、商品又は役務の研究開発に係る業務」とは、専門的、科学的な知識、技術を有する者が従事する新技術、新商品等の研究開発の業務をいい、必ずしも本邦初といったものである必要はありませんが、当該企業において新規のものでなければならず、既存の商品やサービスにとどまるものや、商品を専ら製造する業務などはここに含まれません。
なお、「新たな技術、商品又は役務の研究開発に係る業務」に従事し、1週間当たり40時間を超えて労働させた時間が1月当たり100時間を超えた者については、労働者本人の申出によらず、医師による面接指導を実施しなければならないことに留意が必要です。
また、限度時間(月45時間・年360時間)を超えて時間外労働を行う場合には、健康・福祉を確保するための措置について以下の中から協定するよう努めなければなりません。
(1) 医師による⾯接指導
(2) 深夜業(22時〜5時)の回数制限
(3) 終業から始業までの休息時間の確保(勤務間インターバル)
(4) 代償休⽇・特別な休暇の付与
(5) 健康診断
(6) 連続休暇の取得
(7) 心とからだの相談窓⼝の設置
(8) 配置転換
(9) 産業医等による助言・指導や保健指導
新技術・新商品の研究開発に従事する労働者に係る労働基準法38条の3〔専門業務型裁量労働制〕の適用に関する判断の考え方
裁量労働制とは、業務の性質上、使用者による厳格な労働時間管理に馴染まないことを理由に、労働時間の具体的配分を労働者に委ね、実労働時間については、労使協定などで定めた時間を労働したものとみなす制度のことを言います。裁量労働制には「専門業務型」と「企画業務型」があり、専門業務型裁量労働制は、労働基準法施行規則に定める業務及び厚生労働大臣が指定する20種類の業務に限って導入することができます。一方、企画業務型裁量労働制は、事業の運営に関する事項についての企画、立案および分析の業務であって、その業務の性質上適切に遂行するには、その遂行の方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要があるものについて適用が認められています。
専門業務型裁量労働制の対象業務として、労基則第24条の2の2第2項第1号に規定する「新商品又は新技術の研究開発の業務」とは、材料、製品、生産・製造工程等の開発又は技術的改善等をいい、必ずしも本邦初といったものである必要はありませんが、当該企業において新規のものでなければならず、既存の商品やサービスにとどまるものや、商品を専ら製造する業務などはここに含まれません。
まとめ
スタートアップ企業が成長していくうえで、労働条件の適正化を図り働く者の健康管理に配慮することは、社会的な信用を築き、持続的な発展を遂げていくために重要な要素だと考えます。今回の通達は、スタートアップ企業がどのように労働基準法を適用すべきかについて方向性を示しており、今後ガイドラインとしての役割を果たすことが期待されます。
一方、この通達で示されている内容はすべての企業に共通することが多く、自社の管理監督者や研究開発業務に従事する労働者の範囲が労働基準法上、適正であるかどうか、この機会にあらためてご確認されてみてはいかがでしょうか。
社労士法人エスネットワークスでは、この通達を踏まえての法的助言を含む様々なサービスを提供しています。詳しいサービス内容についてはサービス一覧をご確認いただき、お気軽にお問い合わせください。
社会保険労務士法人エスネットワークス
特定社会保険労務士M・K
事業会社での人事労務キャリアを活かし、クライアントの労務顧問を務めている。労働法をめぐる人と組織に焦点を当てる「生きた法」の実践をモットーとし、社会保険労務士の立場からセミナーや講演を通して、企業に“予防労務”の重要性を呼び掛けている。日本産業保健法学会会員。