【アウトソーシングほっとニュース】12月は「職場のハラスメント撲滅月間」です
12月は年末に向けて業務の繁忙期を迎え、忙しさによるストレスからハラスメントが起こりやすいと言われています。そこで、厚生労働省は毎年12月を「職場のハラスメント撲滅月間」と定め、ハラスメント防止の必要性及び法令に基づき必要となる取組について周知を行うこととしています。
その一環として、12月10日(火)に「職場におけるハラスメント対策シンポジウム」がオンラインで開催されます。今年のテーマは、近年、社会問題化している「カスタマーハラスメント」です。シンポジウムへの参加は、こちらのフォームからお申し込みください。
<タイムスケジュール>
開会 [13:30~]
基調講演 [13:35~14:15]
テーマ:カスタマーハラスメント対策の現状について
講 師:原 昌登 氏(成蹊大学法学部 教授)
休憩 [14:15~14:20]
パネルディスカッション[14:20~15:15]
テーマ:企業のカスタマーハラスメント対策の取組事例
閉幕 [15:15~]
カスタマーハラスメントとは
企業や業界により、顧客・取引先(以下「顧客等」)への対応方法・基準が異なることが想定され、明確に定義付けられませんが、企業の現場では以下のようなものがカスタマーハラスメントであると考えられます。
「顧客等の要求の内容が妥当性を欠く場合」の例
・企業の提供する商品・サービスに瑕疵・過失が認められない場合
・要求の内容が、企業の提供する商品・サービスの内容とは関係がない場合
「要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当な言動」の例
●要求内容の妥当性にかかわらず不相当とされる可能性が高いもの
・身体的な攻撃(暴行、傷害)
・精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言)
・威圧的な言動
・土下座の要求
・継続的 (繰り返し)、執拗な(しつこい)言動
・拘束的な行動(不退去、居座り、監禁)
・差別的な言動
・性的な言動
・従業員個人への攻撃や要求
●要求内容の妥当性に照らして不相当とされる場合があるもの
・商品交換の要求
・金銭補償の要求
・謝罪の要求(土下座を除く)
ハラスメントに関する企業の防止措置義務
セクシュアルハラスメント、マタニティハラスメント(妊娠、出産等を理由とするハラスメント)、育児・介護ハラスメント(育児や介護に関する制度の利用等を理由とするハラスメント)、パワーハラスメントについては、企業に大きく3つの「防止措置」が義務付けられています。
①事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
ハラスメントの内容、ハラスメントを行ってはならない旨の方針の明確化、管理監督者を含む労働者 への周知・啓発
行為者については、厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等に規定し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発
②相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
相談窓口の周知
発生のおそれがある場合やハラスメントに該当するか否か微妙な場合であっても、広く相談に対応
③ハラスメントが発生した場合の事後の迅速かつ適切な対応
事実関係を迅速かつ正確に確認
事実関係の確認後は、速やかに被害者に対する配慮のための措置とともに、行為者に対する措置を適切に対応
再発防止に向けた措置
一方、カスタマーハラスメントについては、現在、上記の防止措置義務は課されていません。ただし、対応が法的に義務付けられるわけではありませんが、いわゆるパワハラ防止指針の中で、「顧客等からの著しい迷惑行為」に関し事業主が行うことが望ましい取組の内容が次の通り規定されています。●相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
●被害者への配慮のための取組
●顧客等からの著しい迷惑行為による被害を防止するための取組
被害者への配慮のための取組例としては、事案の内容や状況に応じ、被害者のメンタルヘルス不調への相談対応、著しい迷惑行為を行った者に対する対応が必要な場合に一人で対応させない等の取組を行うことが考えられます。
また、被害を防止するための取組例としては、顧客等からの著しい迷惑行為への対応に関するマニュアルの作成や研修の実施等の取組を行うことが有効と考えられます。
カスタマーハラスメント対策の強化
さて、厚生労働省では、職場におけるハラスメント防止対策の強化に向けて、法改正の検討に入っています。ハラスメント対策に総合的に取り組んでいく観点から、企業の雇用管理上の措置義務が規定されている4種類のハラスメントに係る規定とは別に、職場におけるすべてのハラスメントは「許されるものではない」という趣旨を法律で明記する方向です。
近年、カスタマーハラスメントや就職活動中の学生に対するハラスメントなど、4種類に当てはまらないハラスメントが社会問題化しており、防止を強化するため「ハラスメントは人権侵害であり、あらゆるハラスメントを行ってはならない」ことを法律で明確化する必要があるとし、来年の通常国会に法改正案を提出することを目指しています。
また、カスタマーハラスメントは労働者の就業環境を害するものであり、労働者を保護する必要があることから、法改正に合わせて定義を定め、カスタマーハラスメント対策について企業の雇用管理上の措置義務とすることを検討しています。カスタマーハラスメントの定義については、以下の3つの要素をいずれも満たすものとしています。
①顧客、取引先、施設利用者その他の利害関係者が行うもので、
②社会通念上相当な範囲を超えた言動であって、
③労働者の就業環境が害される
なお、顧客等からのクレームの全てがカスタマーハラスメントに該当するわけではなく、客観的にみて、社会通念上相当な範囲で行われたものは、いわゆる正当なクレームであってカスタマーハラスメントには当たらないことに留意する必要があるとしています。クレームは何らかの改善を要求する行為ですが、顧客等からの意見であって、仮にその主張に間違いがあったとしても聴くべき価値があります。クレームを受けることで、企業のサービス向上にも繋がります。
事業主が講ずべき措置の具体的な内容は、以下の通りです。
①事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
②相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
③カスタマーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応(カスタマーハラスメントの発生を契機 として、カスタマーハラスメントの端緒となった商品やサービス、接客の問題点等が把握された場合には、その問題点等そのものの改善を図ることも含む)
カスタマーハラスメントから従業員を守る
企業は、従業員の健康と安全を守る「安全配慮義務」を負っています。そのため、従業員の心身の健康を害するカスタマーハラスメントを放置しておくと、被害を受けた従業員から損害賠償を請求される可能性があります。
日本の企業では、経営理念などに「お客様第一主義」が声高に掲げられていることが多いと思います。もちろんお客様は大事なのですが、それ以上に「従業員は大切だ」というメッセージを経営トップが発信することで、従業員は安心して働くことができます。
「お客様は神様です」という言葉がありますが、その言葉の真意は、神前で祈るときのように雑念を払って純粋な心にならなければ完璧な芸を披露することはできないとする心構えを語るうえでお客様を神に見立てているということのようです。つまり、「お客様=神様」として何でもかんでも客の要望をかなえるということでは決してありません。
企業は、カスタマーハラスメントから従業員を守る意識で、顧客や取引先等からの不当な要求・不当や対応には毅然と対応することが求められており、カスタマーハラスメント対策は人事だけでなく、企業全体で対応する必要があります。
また、カスタマーハラスメントの類型として、「BtoC型」と「BtoB型」がありますが、取引先との関係における「BtoB型」は、自社の従業員が相手の従業員に行ってしまう可能性があります。よって、自社の従業員に対しても、「BtoB型」カスタマーハラスメントを起こさせない取組(事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発)を行うことが重要です。
社労士法人エスネットワークスでは、21世紀職業財団認定の「ハラスメント防止コンサルタント®」である社会保険労務士が講師を務めるハラスメント防止研修を行っております。組織の背景や課題を踏まえ、職場におけるハラスメントを防ぎ従業員を大切にする研修をご提供することで、多様な人材が働きやすい職場環境づくりを支援します。
ハラスメント防止対策を検討中のご担当者様は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
社会保険労務士法人エスネットワークス
特定社会保険労務士M・K
事業会社での人事労務キャリアを活かし、クライアントの労務顧問を務めている。労働法をめぐる人と組織に焦点を当てる「生きた法」の実践をモットーとし、社会保険労務士の立場からセミナーや講演を通して、企業に“予防労務”の重要性を呼び掛けている。日本産業保健法学会会員。