【アウトソーシングほっとニュース】パーソル総合研究所が「人事トレンドワード2024-2025」を発表
パーソル総合研究所(東京都港区)は、毎年12月にその年を振り返り次の一年を見通す上で、人事領域において注目される「人事トレンドワード」を選定し、発表しています。社会情勢の変容や労働力不足の常態化に伴い、人事課題がさらに多様化する中、今回、「カスハラ対策」「スキマバイト」「オフボーディング」の3つが選ばれました。それぞれの概要は、以下の通りです。
①カスハラ対策
2024年は、顧客からの迷惑行為・過度な要求である「カスタマーハラスメント(カスハラ)」に注目が大きく集まりました。メディアでの報道が激増したほか、UAゼンセンやその他機関の調査によって、その被害規模や影響などに対する定量的な把握も進み、カスハラの防止に向け、国や自治体の動きが本格化しています。
顧客や取引先からのクレームや言動のうち、社会通念上相当とは認められない行為によって、労働者の就業環境が害されるものを指し、暴行や脅迫、正当な理由がない過度な要求などがカスハラに該当します。
厚生労働省は、2025年の通常国会において、従業員を保護するカスハラ対策を企業に義務付ける労働施策総合推進法の改正案を提出する方針を示しています。また、東京都では2024年10月に全国初のカスハラ防止条例が成立しており、2025年4月から施行されます。
このように今後、法整備がさらに進むことは間違いなく、また、パワハラやセクハラ、マタハラ等と同様に、カスハラによる被害は安全配慮義務違反に当たる可能性もあり、企業にはカスハラ防止や従業員保護の措置義務が求められます。
カスハラ対策に関しては、以下の記事もぜひご一読ください。
【アウトソーシングほっとニュース】12月は「職場のハラスメント撲滅月間」です
②スキマバイト
2023年から2024年にかけて、スマートフォンの専用アプリなどでマッチングし、空いた時間に働く「スキマバイト」という新しい働き方が急速に広がりました。スキマバイトは、短時間かつ基本的に1回限りの仕事を指し、スポットワークともいいます。企業側が労働力の足りない時間帯にピンポイントで求人を出し、働く人は自分の働きたい時間に仕事を選ぶという仕組みで、学生などの若年層を中心に主婦やシニア層、また、正社員の副業利用などにも広がっています。
同じような単発の働き方としては、コロナ禍に広がったフードデリバリーの仕事があります。こちらはギグワークと呼ばれ、スキマバイト(スポットワーク)と、ギグワークとの主な違いは雇用形態にあります。ギグワークで働く人は個人事業主であり、発注者との間に業務委託契約が締結されますが、スキマバイト(スポットワーク)で働く人は労働者で、企業と雇用契約を結ぶのが一般的です。
スキマバイト(スポットワーク)が急増した背景には、労働力不足の深刻化とインバウンド需要の復活によって、飲食や宿泊などのサービス業を中心に、単発・短時間で構わないので人手がほしいという職場が大幅に増えていることがあります。労働力不足を補うという面や、最近の多様化する働き方や価値観にフィットするという面もあり、スキマバイト(スポットワーク)という働き方は、今後さらに広がっていくと考えられます。
③オフボーディング
労働力不足が深刻化する中、2024年は、「退職代行」「サイレント退職」「静かな退職」「アルムナイ」などの退職・離職にまつわる言葉が注目を集めました。入社者が1日も早く活躍できるよう組織に受け入れていく一連の取り組みを「オンボーディング」といいますが、これに対し、従業員が退職意思を表明してから退職するまでの手続きや業務の引き継ぎなどの一連の流れは「オフボーディング」と呼ばれます。
辞め方のひとつとして注目を集めたのが、「退職代行」です。従業員の退職意向を本人の代わりに会社に伝え、退職手続きを行うサービスのことで、利用者は、比較的若い世代が多くを占め、退職時に上司や会社と直接関わることを嫌い、代行を頼むことに抵抗感がない人が多いと想定されます。また、「サイレント退職」は、上司や同僚に事前に何も言わず、突然退職してしまう辞め方のことをいいます。退職代行とは違い、以前からある現象ですが、新たに名前が付いて注目度が高まりました。加えて、退職をしたかのような消極的な働き方として、「静かな退職」という言葉も話題になりました。従業員が最低限の仕事だけをして会社にとどまっている状態を意味し、実際に退職するわけではありませんが、仕事への熱意もないケースを指します。
一方、辞めた後については、退職者を同窓生のように「アルムナイ」として捉え、退職後もつながりを維持する施策が盛んになっており、退職者を再雇用したり、新たな取引先となってもらったりする意図を持って、アルムナイのネットワークを構築する事例が増えています。実際に、企業において人事が推進するアルムナイ施策に多く見られるものとしては、退職者向けのサービス優待や出戻り制度の整備のほか、公式のアルムナイ向けSNSの開設や退職者同士が非公式に行っている既存のSNS上のつながりの維持・促進支援、退職者向けイベントの実施などがあります。
かつては、退職者を裏切り者のように扱う企業が少なくありませんでした。しかし、労働力不足が進む現代においては、退職者に気持ちよく辞めてもらい、その後も関係性を維持することが当たり前になっていくと考えられ、アルムナイに関するものだけでなく、オフボーディングの取り組みがますます重要になっていくのでないでしょうか。
参考(過去の人事トレンドワード)
人事トレンドワード2023-2024:「賃上げ」「リスキリング」「人材獲得競争の再激化」
人事トレンドワード2022-2023:「テレワーク」「DX人材」「人的資本経営」
社会保険労務士法人エスネットワークス
特定社会保険労務士M・K
事業会社での人事労務キャリアを活かし、クライアントの労務顧問を務めている。労働法をめぐる人と組織に焦点を当てる「生きた法」の実践をモットーとし、社会保険労務士の立場からセミナーや講演を通して、企業に“予防労務”の重要性を呼び掛けている。日本産業保健法学会会員。