【アウトソーシングほっとニュース】不妊治療と仕事 両立できていますか?
働きながら不妊治療をすることに悩んでいる人が多くいます。不妊治療を経験した人のうち4人に1人が、不妊治療と仕事を両立できずに離職したり、雇用形態を変えたり、不妊治療をやめたりしています。不妊治療と仕事の両立が難しい理由には、通院回数の多さ、精神面での負担の大きさ、通院と仕事の日程調整の困難さなどがあるとされています。
子供を持ちたいと切に願う人が不妊治療を受けながら安心して働き続けられるよう、企業には職場環境の整備が求められています。そうした職場づくりの取り組みは、離職の防止や、従業員の安心感・モチベーションの向上、また、新たな人材を惹きつけることなどにつながり、企業にとっても大きなメリットがあります。
不妊治療と仕事の両立の現状
国立社会保障・人口問題研究所の調査によると、不妊を心配したことがある夫婦は39.2%で、これは夫婦全体の2.6組に1組の割合になります。また、実際に不妊の検査や治療を受けたことがある又は現在受けている夫婦は22.7%で、これは夫婦全体の4.4組に1組の割合になります。
近年、晩婚化等を背景に不妊治療を受ける夫婦が増加しており、生殖補助医療による出生児の割合も約10人に1人となっています。しかしながら、約6割の企業で、不妊治療を行っている従業員の把握ができておらず、約7割の企業では、不妊治療を行っている従業員が受けられる支援制度等を実施していません。そうした中、不妊治療をしたことがある又は予定している人で不妊治療と仕事を両立している(していた)人が55.3%いる一方で、26.1%の人は、両立ができずに仕事を辞めた若しくは雇用形態を変えた、あるいは、両立できず不妊治療をやめています。
不妊治療と仕事が両立できなかった理由
不妊治療と仕事の両立ができなかった理由(複数回答)は、「待ち時間など通院にかかる時間が読めない、医師から告げられた通院日に外せない仕事が入るなど、仕事の日程調整が難しいため」が49.3%、「精神面で負担が大きいため」が44.8%、「体調、体力面で負担が大きいため」が40.3%と多くなっています。また、「職場の理解やサポートが得られないため」(20.9%)や「長時間労働であるため」(14.9%)といった理由もあげられています。
不妊治療による職場での嫌がらせ等の影響
不妊治療をしている又は予定している人のうち、職場で「一切伝えていない又は伝えない予定」とした人は47.1%と約半数を占めています。また、不妊治療をしていることを職場の一部にでも伝えている人の中には、職場で上司や同僚から嫌がらせや不利益な取扱いを受けたとする人も一定数おり、職場で不妊治療していることを受け入れる風土が十分に醸成されていないことがうかがわれます。
不妊治療と仕事の両立支援導入ステップ
企業にとって、不妊治療と仕事との両立が困難なことにより離職する人材が増えることは、労働力の減少、ノウハウや人的ネットワーク等の消失、新たな人材を採用する労力や費用の増加などのデメリットをもたらします。一方、企業が従業員の事情に応じて、不妊治療と仕事の両立をサポートする姿勢を示すことは、従業員にとって安心でき、仕事への意欲が増すなどの好影響を与えます。
企業が、従業員の不妊治療と仕事の両立支援を行うには、次のように5つのステップで取り組むことが大切です。
①取り組み体制の整備
取り組み体制の整備として、まずは主導する部門や担当者等を決定し、社内のニーズや他社の取組について情報収集を行います。
②従業員の不妊治療と仕事の両立に関する実態把握
チェックリストやアンケートを活用したり、従業員からヒアリングを行い、不妊治療についての社内の理解度やニーズ等現状を把握します。なお、労働組合のように従業員の要望を取りまとめる組織がある場合には、そうした組織と意見交換することが有効です。
③制度の設計・取り組みの決定
ステップ②の現状把握を踏まえて、各企業の実態に応じた取り組みを検討し、制度設計を行います。不妊治療と仕事の両立に特化した制度だけでなく、従業員のニーズに応じて柔軟に働ける制度を用意することも考えられます。なお、制度の内容によっては、就業規則の改訂が必要となります。
④運用
不妊治療はプライベートに関することであり、従業員本人からの制度利用の申出が基本です。本人からの申出が円滑に行われるよう、制度に関する情報等を役員、管理職を含めた従業員全体に周知することが必要です。また、制度の周知と併せて、不妊や不妊治療を理由としたハラスメントが生じることのないよう意識啓発を行い、不妊治療に理解のある職場風土づくりが重要です。さらに、不妊や不妊治療に関する情報が本人の意思に反して職場に知れ渡ってしまうことなどが起こらないよう、プライバシーの保護には十分注意する必要があります。
⑤見直し
制度や取り組みの実施後は、半年、1年等、一定の期間が経過したタイミングで、評価や見直しといった振り返りを行うことが効果的です。
くるみんプラス認定
「くるみんプラス」認定制度は、次世代育成支援対策推進法に基づき「くるみん」等の認定を受けた企業が、不妊治療と仕事との両立にも積極的に取り組み、一定の認定基準を満たした場合に、3種類のくるみんにそれぞれ「プラス」認定を追加するもので、「くるみんプラス」「プラチナくるみんプラス」「トライくるみんプラス」と称しています。
認定要件等は、こちらのリーフレットをご覧になってください。
中小企業向け助成金
不妊治療と仕事との両立に資する職場環境の整備に取り組み、不妊治療のために利用可能な休暇制度や両立支援制度を従業員に利用させた中小企業を支援する助成金がありますので、ぜひご活用ください。
両立支援等助成金(不妊治療両立支援コース)
<対 象>
次の①~⑥のいずれか又は複数の制度を導入し、労働者に利用させた中小企業事業主
①不妊治療のための休暇制度(多目的・特定目的とも可)
②所定外労働制限制度
③時差出勤制度
④短時間勤務制度
⑤フレックスタイム制
⑥テレワーク
<支給額>
A「環境整備、休暇の取得等」 :最初の労働者が休暇制度・両立支援制度を合計5日(回)利用・・・ 30万円
B「長期休暇の加算」: Aを受給し、労働者が不妊治療休暇を20日以上連続して取得・・・30万円
<申請のステップ>
両立を支援する旨の企業トップの方針の周知⇒社内ニーズ調査⇒就業規則等の規定の周知⇒両立支援担当者の選任⇒労働者との面談・「不妊治療両立支援プラン」の策定
※詳細は、支給申請までの流れをご確認ください。
さいごに
不妊治療への理解と支援は、職場のエンゲージメントを高め、従業員のウェルビーイングの向上につながり、多様な人材が活躍できる職場づくりに寄与します。また、不妊問題への取り組みは社会的関心の高いテーマであり、企業が社会的責任を果たす姿勢を示すことは、企業のブランド価値と外部からの評価を向上させる効果があります。
「不妊治療のために退職しない」ことが企業にとってのゴールではなく、従業員にとって、不妊治療により妊娠・出産し、子育てというライフイベントの実現が可能となるとともに、「不妊治療をしながらも、キャリアをあきらめなくていい」環境を整備していくことが重要です。
社労士法人エスネットワークスでは、育児・介護・病気治療・不妊治療と仕事との両立支援や、健康経営に関するサポートも提供しています。人事労務課題にお困りの方はぜひ一度お問合せください。
社会保険労務士法人エスネットワークス
特定社会保険労務士M・K
事業会社での人事労務キャリアを活かし、クライアントの労務顧問を務めている。労働法をめぐる人と組織に焦点を当てる「生きた法」の実践をモットーとし、社会保険労務士の立場からセミナーや講演を通して、企業に“予防労務”の重要性を呼び掛けている。日本産業保健法学会会員。