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【社エス通信】2025年3月号 4月から義務化!介護離職防止の措置

目次








2025年4月から段階的に施行される改正育児・介護休業法には、「介護離職防止」を目的とした仕事と介護の両立支援制度の強化が盛り込まれており、企業にとっては重要な法改正となっています。
法改正の趣旨は、男女ともに仕事と育児・介護を両立できるようにするため、子の年齢に応じた柔軟な働き方を実現するための措置の拡充、育児休業の取得状況の公表義務の対象拡大や次世代育成支援対策の推進・強化、介護離職防止のための仕事と介護の両立支援制度の強化等の措置を講ずるものとされており、企業として対応が必要な項目およびスケジュールは下表の通りです。

改正育児・介護休業法の実務対応スケジュール



  




人材不足が更に加速していくなか、仕事と介護の両立支援が十分にできず、従業員が介護離職したり生産性が下がったりすることは、企業経営における大きなリスクとなります。一方、仕事と介護の両立支援を推進することにより、企業にとって大切な従業員のキャリア継続が可能となって人的資本経営の実現に繋がり、より強い組織をつくっていくことができます。

そこで、今月の社エス通信では、法改正における介護関係の見直しにより企業に義務化される項目を中心に取り上げ、企業が介護離職を防止し仕事との両立を支援するポイントについて解説します。

介護離職防止と両立支援

 正社員で介護をしている人の割合は下表の通りで、働く人の1割前後が介護を担っています。

働きながら介護をしている人の割合







 さらに、今年(2025年)は団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になりますので、これから40代~50代の団塊ジュニア世代が親の介護に直面し、介護者が増加していくことが見込まれます。また、40代~50代の従業員には管理職も多く、企業の中で介護を抱える管理職が増えていくというわけです。
 ところで、介護離職とは、要介護状態になった家族の介護に専念するために、それまで勤めていた会社を退職するなど本業の仕事を辞めてしまうことをいいます。介護離職者は毎年約10万人となっており、直近では男性の比率が上昇傾向にあります。企業の側から見れば、介護離職は人材流出という意味で大きな損失です。
 厚生労働省が介護離職した人に対して行った調査によると、仕事を辞めた理由は「勤務先の両立支援制度の問題や介護休業等を取得しづらい雰囲気等があった【勤務先の問題】」が43.4%(離職時:正規労働者、以下同じ)で最も多く、「介護保険サービスや障害福祉サービス等が利用できなかった、利用方法がわからなかった等があった【サービスの問題】」30.2%、「手助・介護が必要な家族、その他家族・親族の希望等があった【家族・親族等の希望】」20.6%、「自分の希望(仕事を続けたくなかった)」22%と続いています。勤務先の問題が、離職者全体で4割強と、他の理由よりも割合が高くなっています。
資料出所:「令和3年度 仕事と介護の両立支援等に関する実態把握のための調査研究事業報告書」

介護離職者の仕事を辞めた理由












 また、介護離職した人のその後の生活の変化について「介護離職後、負担は軽減したか?」を聞いたところ、精神面・肉体面・経済面ともに「非常に負担が増した」「負担が増した」と回答した割合が6~7割弱を占めています。仕事と介護の両立は大変ですが、介護のみの生活はさらに大変です。社会との多様なつながりを維持しながら、仕事と介護の両立を図ることは、介護のストレス軽減にも貢献しますので、介護の課題に直面しても、仕事を継続することが重要です。

介護離職者の生活の変化









 仕事と介護の両立支援は、従業員が介護に関わりながらキャリア形成をするための支援であり、従業員にとってはキャリアの問題です。両立支援は、介護の支援ではなく、キャリアの支援なのです。このように、介護離職防止と両立支援は、採用難の時代に従業員に長く働いてもらいたいと考える企業、介護に直面しても自身のキャリアを諦めたくない従業員の双方にとって必須の対策といえます。

介護離職防止のためには情報発信が重要

 介護は、育児と違って、ある日、突然始まります。しかし、従業員の多くは「まだ介護は始まっていない」「親はまだ元気だから関係ない」といった考えで、自分ゴトにはなっていません。しかし、(親が)70歳後半になると、要支援・要介護の割合が増え始め、認定率は、男性では、70歳代後半で12%、80歳代前半で23%、80歳代後半で41%となっています。女性では、70歳代後半で15%、80歳代前半で34%、80歳代後半で57%です。従って、(従業員が)40歳台後半から、親の介護に関する課題に直面する人が増え始め、定年等で退職する時期まで仕事と介護の両立が課題になります。また、これからは介護の負荷が大きくなるといわれています。それは、親の長寿化(ただし、健康寿命が延びているわけではありません)、兄弟姉妹数の減少、単身者の増加などが背景にあるからです。
 何も準備をしていないままに介護が始まってしまうと、対応方法がわからないなか、仕事と介護の両立態勢をつくれず介護離職に陥ってしまうこともあります。よく「介護は情報戦」といわれますが、仕事と介護の両立のために必要な情報の認知度も非常に低く、圧倒的な情報不足が課題になっています。
 企業が介護離職を防止するには、従業員の介護リテラシーを上げるための情報発信を行っていくことが重要です。つまり、今は仕事と介護の両立に関心・興味のない人たちを含めて、「仕事と介護の両立のために必要な情報を知らなかった」をなくすことが企業として取り組むべき介護離職防止策です。
 まさに今回の法改正の趣旨は、仕事と介護の両立支援制度を十分活用できないまま介護離職に至ることを防止するため、仕事と介護の両立支援制度の個別周知と意向確認により効果的な周知が図られるとともに、両立支援制度を利用しやすい雇用環境の整備をおこなうこととされています。

介護離職防止のための仕事と介護の両立支援制度の強化

 介護離職の要因には、勤務先や家族、介護サービスに起因するものなど様々なものがありますが、社内で両⽴⽀援制度が整っているにもかかわらず、制度の内容や利⽤⼿続等を知らなかったために利⽤が進んでいないことも⼀因となっています。介護に直面した従業員に対して仕事と介護の両⽴⽀援制度について周知をおこない、効果的な利⽤を促すことが重要です。
 法改正により企業に義務付けられる措置は次の3つです(施行日:2025年4月1日)。
①介護に直面した従業員が申出をした場合に、両立支援制度等に関する情報の個別周知・意向確認
②介護に直面する前の早い段階(40歳等)の両立支援制度等に関する情報提供
③研修や相談窓口の設置等の雇用環境の整備

①介護離職防止のための個別の周知・意向確認

 介護に直面した旨を申し出た従業員に対して、介護休業及び介護両立支援制度等に関する以下の事項の周知と制度利用の意向確認を行わなければなりません。個別周知と意向確認は、介護休業申出や介護両立支援制度等申出が円滑に行われるようにすることが目的ですので、取得や利用を控えさせるようなことはおこなってはならないことは言うまでもありません。

介護離職防止のための個別の周知・意向確認






②介護に直面する前の早い段階(40歳等)での両立支援制度等に関する情報提供

 仕事と介護の両立支援制度を十分活用できないまま介護離職に至ることを防止するため、介護に直面する前の早い段階(40歳等)に 介護休業及び介護両立支援制度等に関する情報提供をおこなわなければなりません。なお、介護休業及び介護両立支援制度等について従業員の理解と関心を深めるための情報提供をおこなうに当たっては、各制度の趣旨・目的を踏まえることが望ましいとされています。また、早期の情報提供を行う際には介護保険制度についても併せて知らせることが望ましいです。

介護に直面する前の早い段階での情報提供






③研修や相談窓口の設置等の雇用環境の整備

 介護休業と介護両⽴⽀援制度等の申出が円滑に⾏われるようにするため、以下のいずれかの措置を講じなければなりません。雇用環境の整備の措置を講ずるに当たっては可能な限り複数の措置を講ずることが望ましいです。
●介護休業・介護両⽴⽀援制度等に関する研修の実施
●介護休業・介護両⽴⽀援制度等に関する相談体制の整備(相談窓口の設置
●⾃社の従業員への介護休業・介護両⽴⽀援制度等の取得事例の収集及び提供
●⾃社の従業員への介護休業・介護両⽴⽀援制度等の利用促進に関する方針の周知

「働きながら介護をする」ための法律

 育児・介護休業法に定められている介護休業は通算93日までです。一方、介護の期間は、平均49.4ヶ月(公益財団法人生命保険文化センター「平成30年度 生命保険に関する全国実態調査」)といわれています。実際には、介護に必要な期間の目途を立てるのは難しく、また、10年を超えるといった長期に渡るケースもあり得ます。介護休業を直接的な介護に専念するために利用するとしたら、93日ではとても足りません。
 実は、育児・介護休業法は「働きながら介護をする」ことを目的とした法律です。育児に専念することが目的である育児休業と、介護休業との違いを理解することが必要です。介護休業は、「(自分で)介護する」ための休業ではなく、介護認定の申請や介護施設の見学など「介護する体制を整える」ための休業として設計されています。また、介護休暇、介護のための所定外労働の制限(残業の免除)、介護のための所定労働時間の短縮等は、ケアマネジャーとの打ち合わせを始め「日常的な介護のニーズに対応する」ために活用する制度です。従って、大幅に働き方を変えるのではなく、これらの措置を利用して、できるだけ通常通りに勤務しながら介護の課題に対応できるようにすることがポイントなのです。
 しかし、介護休業に関する考え方を誤解している人が多いことが、下図からわかります。この調査では、介護休業に関する考え方について、「A:介護休業期間は主に仕事を続けながら介護をするための体制を構築する期間である」と「B:介護休業期間は介護に専念するための期間である」に対し、回答者の考えに最も近いものを選択してもらったところ、「A」または「どちらかというとA」と回答した割合は、3~4割程度に留まっていました。

介護休業の考え方









 また、育児・介護休業法における「要介護状態」についても、勘違いがよくあります。要介護状態とは、負傷、疾病または身体上もしくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態のことをいい、「要介護認定」でありません。従って、介護保険制度の要介護認定を受けていなくても、常時介護が必要な状態であれば介護休業の対象となり得ます。

「介護保険」の仕組みを理解する

 介護保険は、高齢者の介護を家族だけで抱え込むことなく社会全体で支えることを目的に、2000年4月に創設された公的保険制度です。40歳以上の国民は、介護保険に加入することが義務づけられ、介護保険料を支払います(健康保険に加入する40歳~64歳の人の介護保険料は、健康保険料と一体的に徴収される)。
 介護が必要な人は1~3割の自己負担で各種介護サービスを利用できますが、介護サービスを受けられるのは、介護保険料を支払い、居住する市区町村から要支援・要介護状態であると認定を受けた次の人です。
①第1号被保険者:65歳以上で、(原因を問わず)要支援・要介護状態と認定
②第2号被保険者:40歳~64歳で、特定疾病により要支援・要介護状態と認定
※特定疾病=初老期の認知症、脳血管疾患、末期がん、関節リウマチなど16種類の疾病

 介護保険サービスを利用する流れは以下の通りです。

介護保険サービスを利用する流れ









介護に関することは誰に相談すればよいか

 介護については、多くの人が「わからないことがわからない」状態です。家族に介護が必要になった、また、遠からず介護が始まるかもしれないという不安がよぎったときは、介護に関するどんなサービスがあるのか、どんなサービスを受ければよいかなど、まずは「地域包括支援センター」へ相談に行きましょう。地域包括支援センターは、地域における介護のワンストップサービス窓口で、中学校区に1センター(歩いて30分以内目安のところに)設置されています。地域包括支援センターには、主任ケアマネジャー、保健師または看護師、社会福祉士などの専門家が配置されており、よろず相談に応じてくれます。また、高齢者のために介護予防・福祉を含めたサービスを継続的に提供しています。介護保険の範囲内の疾病や障害だけでなく、日常生活上の相談にも応じ、経済的な問題、人間関係の問題、家族の問題など介護者が抱える課題解決に向けた支援業務も担っています。
 全国の地域包括支援センターの一覧は、こちらからご確認ください。

資料出所:厚生労働省ホームページ地域包括支援センター



 







 次に、「ケアマネジャー」の存在も知っておきましょう。ケアマネジャー(介護支援専門員)は、介護サービス利用のキーパーソンで、介護の伴走者といえる、もっとも頼りになる一番身近な専門家です。ケアマネジャーは、介護を受ける人や家族に希望に応じて、ケアプランを作成し、市区町村や介護サービスを提供する事業者との連絡調整等もおこないます。ケアマネジャーに相談するうえで大切なのは、仕事を続ける意思を明確に伝えることです。そして、勤め先の両立支援制度内容や職場の状況、会社での立場、上司や同僚の理解が得られそうかなど、できるだけ具体的に伝えることで、希望に沿ったケアプランを立ててもらえます。

資料出所:厚生労働省ホームページ

ケアマネジャー


会社の制度を知っておく

 介護はいつ始まるかわかりません。いざというときに慌てないよう、利用できる制度を把握しておきましょう。

仕事と介護を両立する制度①







仕事と介護を両立する制度②









介護休業給付金とは

 介護休業を取得し、受給資格を満たしていれば、原則として休業開始時の賃金の67%の「介護休業給付金」を受けることができます。
休業開始時の賃金日額×支給日数×0.67(通算して最長93日間)

介護休業給付金







仕事と介護を両立するためのポイント

 企業は、介護離職防止は経営を支える人材確保のために、両立支援は従業員のキャリア支援のために、重要な施策であると位置付け、積極的な取り組みを進めて欲しいと思います。
 また、実際には仕事と介護を両立しているが職場には開示していない「隠れ介護者」がいることも認識しておくことが必要です。近年、隠れ介護者の数は増えているといわれていますが、隠れ介護者になる経緯は人によって異なり、職場に開示していない理由もさまざまです。仕事の中核を担う従業員が隠れ介護者になった場合、職場の生産性に影響するリスクがあります。経営者は「介護離職防止宣言」をして、隠れ介護者を生まない組織風土をつくっていくことが重要です。

 最後に、従業員が仕事と介護を両立するためのポイントを6つ挙げておきます。
①職場に「家族等の介護を行っていること」を伝え、必要に応じて勤務先の「仕事と介護の両立支援制度」を利用する
②介護保険サービスを利用し、自分で「介護をしすぎない」
③介護保険の申請は早目に行い、要介護認定前から調整を開始する
④ケアマネジャーを信頼し「何でも相談する」
⑤日頃から「家族や要介護者宅の近所の方々等と良好な関係」を築く
⑥介護を深刻に捉えすぎずに「自分の時間を確保」する

 そして、事前に準備しておくべきことは、次の2つです。
➊介護保険制度・介護サービス、両立支援制度の概要を把握しておく
➋介護に直面した時にどこに相談すればよいか、窓口を知っておく


この記事を書いたのは・・・

社会保険労務士法人エスネットワークス
特定社会保険労務士M・K

事業会社での人事労務キャリアを活かし、クライアントの労務顧問を務めている。労働法をめぐる人と組織に焦点を当てる「生きた法」の実践をモットーとし、社会保険労務士の立場からセミナーや講演を通して、企業に“予防労務”の重要性を呼び掛けている。日本産業保健法学会会員。





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